2018/11/11 日曜 シェイクスピア 『アテネのタイモン』
 BBCによるシェイクスピア戯曲シリーズDVDでまだ観ていない『アテネのタイモン』を観た.分類上は悲劇である.『コリオレーナス』同様,このような題名の作品がシェイクスピアにあるとは,私は事前には知らなかった.
 これは面白い.主人公タイモンを演じるJonathan Pryce の独り舞台のような感がある.DVDの時間が2時間ちょっとで,同シリーズの中では最も短い部類だろう.
 ストーリーは単純で寓話のようだ.アテネにタイモンという貴族がいる.タイモンは自分の財産を他の人たちに惜しみなく施す.だから人が寄って来る.タイモンは常々,「貧乏になりたい.そうすれば皆さんの友情が確かめられる」という.実は忠実な執事フレヴィアスは破産が避けられないことをタイモンに何度も忠告しようとし,哲学者アペマンタスはお人好しにもほどがあるといって何度も箴言する.しかしタイモンは聞き入れないのである.
 そのタイモンはじきに破産する.そこで友人(と思っていた人)に金を借りようとするのであるが,誰からも断られてしまう.そのことに失望して怒り狂い,人間不信に陥り,アテネ城外の海岸近くの穴ぐらで暮らし始め,人を呪いながら死んでしまう,という筋である.
 たとえていうなら,嵐の中で人を呪うリア王がそのまま死んでしまうような筋である.だからストーリーはやや短い.
 芝居としての見どころは,人に施している時点では人々の善意を信じ,気前よく分け与えているのに,友人が誰も助けてくれないと知ると極端な人間不信に陥る,その急転換ぶりだろう.借金を断った不義理の者たちを集めて侮辱する趣向が笑える.タイモンの人間不信の台詞の数々が面白い.辛辣な道化が発するような言葉がどこまでも続く.だから物語は形式上「悲劇」なのであるが,「喜劇」のように見えてしまう.
 実は,タイモンがいた穴ぐらの近くで金貨が沢山出て来る.その金貨を元手にすれば,タイモンは身上を持ち直すことができるかも知れない.しかしタイモンの人間不信は変わらない.その金貨目当てにまたも寄って来る人たちに,「さあ,この金で人を不幸にしろ」と罵って分け与えてしまうのである.

 ネタ本は『コリオレーナス』同様にプルタークの『英雄伝』であるらしい.なお,ギリシャの懐疑主義哲学者に「プリウスのタイモン」という人がいたらしく,この戯曲のストーリーはそちらのタイモンとも何がしかの関係があるそうであるが,私は詳しくは知らない.
 なお,この作品は後に少し話を加えて上演されることが多かったようで,その修正作に対してヘンリー・パーセルが「アテネのタイモン」という劇音楽を作っている.CDも出ている.それなりに流行った戯曲なのだろう.

by larghetto7 | 2018-11-11 16:59 | 日記風 | Comments(0)
名前
URL
削除用パスワード