2018/10/21 日曜 シェイクスピア 『ウィンザーの陽気な女房たち』
 BBCのシェイクスピア戯曲のDVDシリーズの『ウィンザーの陽気な女房たち』を,県立図書館から借りてきて観た.この作品は,題から分かる通り喜劇である.ざっと流して観るつもりだったが,思いのほか面白かった.

 ウィンザーはウィンザー城で名を知られる.調べるとロンドン中心街の西34kmというから,ロンドン近郊といってよいのだろう.陽気な女房とは,ウィンザーの紳士階級のペイジ家とフォード家の夫人である.主役になるのはフォルスタッフという,サーの爵位を持つがならず者同様の老体で,劇中ではしばしばサー・ジョンと呼ばれる.フォルスタッフは『ヘンリー四世』で出てきた人気キャラで,エリザベス女王が気に入って,現代(当時)の時代設定で登場することになったらしい.
 この作品では2つのストーリーが並走する.1つは,フォルスタッフがペイジ夫人とフォード夫人に同時に同じ文面の恋文を書き,ねんごろになって金を巻き上げようと画策する.女房たち,つまりペイジ夫人とフォード夫人はフォルスタッフの意図を見抜き,話に乗るように見せて,フォルスタッフを散々に懲らしめる,というドタバタ劇である.もう1つのストーリーはペイジ夫妻の娘のアンの結婚話である.アンには裕福な紳士スレンダー,フランス人医師で宮廷にも出入りするカイアスが求婚している.ペイジの旦那はアンをスレンダーと,ペイジ夫人はカイアスと結婚させたい.が,アンは,身分はあるが金のないフェントンと恋仲である,という状況である.
 この2つのストーリーは最後の場面で合流する.最後の場面では,フォード夫人がフォルスタッフを夜中,ウィンザーの森のオークの木の下に呼び出す.その森のオークの木とは伝説の場所であり,狩人ハーンという幽霊が出るという言い伝えがある.そこに出向いたフォールスタッフは妖精たちに化けた登場人物たちに脅され,いじめられる.が,その騒ぎの中でアンはフェントンとその場を抜け出して結婚してしまうのである.最後は大団円となり,お互いのわだかまりを許し合い,フォルスタッフを含め,みんなで談笑するためにペイジ家に向かうという場面で終わる.この最後の場面は画面として美しく,『夏の夜の夢』を思わせる.
 これまで観たシェイクスピア喜劇の中でも,私にはこの作品は特に魅力的である.この作品には悪人は出てこない.皆が善意の人である.ずるいことを考える者もいるが,みな懲らしめられ,最後は円満に終わるのである.

 主役はやはりフォルスタッフなのだろう.私は,このフォルスタッフというキャラがなぜ人気があるか理解できなかった.フォルスタッフは,時代設定としてはこの作品ができるより200年近く前の,ヘンリー四世の物語に出て来る.先述のように,おそらくエリザベス女王が望んだので,このキャラを「現代劇」の中に呼び込んだのである.今回この作品を観てみると,要するに落語の与太郎とか熊五郎のように,喜劇ストーリーの中に常に登場するダメな奴,という設定で人気があるのだろう,と思えてきた.フォルスタッフの手下も同じメンバーで登場する.バードルフ,ピストル,ニムである.
 さらに,この作品では重要な役割を演じるクイックリー夫人というのは,『ヘンリー四世』,『ヘンリー五世』に出て来る,フォールスタッフ行きつけの居酒屋ボアーズヘッド亭の女将であり,『ウィンザーの陽気な女房たち』では医師カイアスの使用人として登場している.『ヘンリー五世』ではピストルがクイックリー夫人を妻にするのであるが,この2人がねんごろになるところも『ウィンザー』で描かれるという,芸の細かさが示されている.なお,バードルフ役のGordon Gostelowは,前作と同様に一貫してバードルフ役で出ている.バードルフ役は彼しかいないと,解説書には書いてあった.

 この作品で名演技が目立つのは,フォード氏(旦那)を演じた Ben Kingsley である.フォード氏は妻が浮気をしていると疑い,いろいろと動き回り,喜劇的に大騒ぎを演じる.Ben Kingsley はインド系の俳優だそうで,『ガンジー』という映画ではガンジーその人を演じている.また,クイックリー夫人のElizabeth Spriggsも大したものである.カイアスの使用人でありながらいろんな人の使いをこなし,最後は妖精の女王役までやってしまう.
 目立たない役であるが,スレンダーの召使というちょい役で,『リチャード三世』で主演したRon Cookが出ていたのも面白い.

by larghetto7 | 2018-10-21 19:13 | 日記風 | Comments(0)
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