2018/07/22 日曜 シェイクスピア『ロミオとジュリエット』
 県立図書館から借りてきたBBC制作の番組のDVDで『ロミオとジュリエット』を観た.このシリーズのまだ観ていない作品を番号順に借りるようにしている.たまたま今回は人気の『ロミオとジュリエット』になった.
 恋愛悲劇と呼ぶらしい.『ハムレット』などの4大悲劇には入っていないけれど,人気の点では劣らない作品であろうと思う.DVDのボックスにはこの作品に「BBCはオールスター・キャストで臨んだ」とある.ジュリエットは14歳に近い13歳という設定であるが,解説書には,ジュリエットを演じたレベッカ・セイアは14歳だという.気づいたところでは,『テンペスト』の主役を演じたマイケル・ホーダーンがキャピレット家の当主を演じていたし,ロミオに殺されるティボルト(バレエではタイボルトといっているように思う)は,ハリー・ポッターのスネイプ役だったアラン・リックマンが演じている.
 
 結論からいうと面白かった.
 第1に,ヴィジュアル的に美しい.イタリアのヴェローナに設定したを舞台のモノの体系が美しい.街並み,人々の服装は明るく華やかであり,このDVD通りの舞台を再現するなら,見ているだけで客は楽しめるのだろう.
 今回,文庫本(松岡和子訳)を買ってセリフを眺めていた.本で読むだけだと,例えば仮面舞踏会といってどのような情景,服装,建物を思い浮かべればよいか,私のような素人では全く分からない.それを「こんな世界ですよ」と見せてくれる.やはり舞台(映像)を見るべきなのだろう.
 若いジュリエットはルネサンス期の絵画から抜け出したようである.
 第2に,話の展開にスピード感があり,観客は引き込まれざるを得ない.
 スピード感があり過ぎる,というべきかも知れない.なにせ,全部の物語が5日で完結する.モンタギュー家のロミオがキャピレット家の仮面舞踏会に紛れ込み,そこでジュリエットに一目ぼれするのだが,その日のうちに2人は恋仲になる.次の日に秘密の結婚をする.マキューシオがティボルトに殺され,怒ったロミオがティボルトを殺して追放の身の上になるのが次の日.4日目にはパリスとの結婚を強いられたジュリエットが薬を飲んで仮死状態になり,5日目にはロミオとジュリエットが本当に死んでしまうのである.「あれよあれよ」と思う間に話が進む.特にロミオがティボルトを剣げきの末殺す場面は悪夢を見るような急な展開なのだ.
 
 この早過ぎる展開を可能にした要因は何かと考えてみた.

1.まずロミオとジュリエットが仮面舞踏会で会い,その日のうちに両想いになって愛を誓いあっていることである.そんなって,ありか?
 まあ,社会心理学的には「あり」である.まず人の好き嫌いは出会ってすぐに決まる.また,相手がどのような人か,その基本的なパーソナリティ次元の中身はきわめて短時間のうちに分かるという研究がある.だから,数分間の Speed dating で相手を決めることは,無理ではない,ということになる.

2.秘密裏にロレンス神父が2人の結婚式をあげてしまう.これまた,ありか?
 ロミオがすぐに神父に結婚のお願いに行くのも性急であるが,神父がなぜかすぐに認めてしまう.この結婚によって両家の反目が和らぐことを期待してのことである.しかし普通なら両家に話を通すだろう.結婚してしまって後でゴタゴタが起きないかは懸念しなかったのか,ですよね.

3.斬り合いが起きてしまう.
 斬り合いが始まるのは自然な展開と思う.訳本では斬り合いの様は全く書かれていない.本は台詞書きである.ここは舞台演出家がどのように演出するかなのだろう.スピード感があり緊迫した斬り合いが展開すること,『ハムレット』の最後の場面のごとくである.
 進化心理学系の『人が人を殺すとき』という本を思い出した.その研究によれば,殺人の多くは男が起こし,しかも(犯罪がらみの殺人の場合を除いて)つまらない意地の張り合いから殺人に発展する.体面にこだわり攻撃的になる.男はそういう風にできているのである.
 キャピレット系(ジュリエットのいとこ)のティボルトとロミオの友人のマキューシオの間でまず斬り合いになる.止めに入ったロミオがマキューシオの身体を抑えたときにティボルトの剣がマキューシオを突くのである.マキューシオの死で怒ったロミオがティボルトと斬り合い,ティボルトを殺してしまう.ロミオが強い.ロミオはこの殺人によってヴェローナ追放になる.
 Culture of honor が強い社会であれば,ロミオがティボルトを殺すのは当然であり,罪にはならない,ということもあるかも知れないな,と思う.

4.キャピレットがジュリエットとパリス伯爵との結婚を急いだ
 かねてよりジュリエットを妻にしたいといっていたパリス伯爵とジュリエットを,キャピレット(当主)がすぐに結婚するよう手配してしまう.ジュリエットが嫌と言うのに聞かない.
 親類のティボルトが死んだこととジュリエットの結婚を早めることには因果関係はないように見えるが(一般には喪中だから逆ではないか?),この辺の理由は分からない.
 この展開になって,秘密裏に結婚をさせたロレンス神父の判断が仇になった訳である.

5.仮死になる薬をなぜか神父が持っていた
 困り切ったジュリエットの相談を受けたロレンス神父は,当初打つ手なしを言っていたが,いきなり仮死になる薬を取り出すのである.この薬を飲むと仮死状態になり,42時間後に目が覚めるのだという.そんな都合の良い薬があるか,危険な薬であれば体重に合わせて調合しないといけないだろう,と思うが,そこは劇である.
 仮死状態のジュリエットが霊廟に移された後に目を覚まし,そこにロミオが来て,一緒にマンチュア(マントヴァ)に駆け落ちする,という計画にしたのである.その計画が次の展開によって狂いを生じる.

6.ロミオへの連絡の行き違いがあり,ロミオはジュリエットが死んだと思い自らの死を決意する
 ロレンス神父の計画通りであれば,ロミオはジュリエットと駆け落ちし,そこでハッピィ・エンドで終わるか,さらに長い話の展開があったかもしれない.しかし連絡が行き違う.行き違いはあって自然である.死を決意したロミオは自殺用の毒を入手する.

7.ジュリエットに武士の娘のような覚悟があった
 最後は,ジュリエットの「遺体」の傍でロミオが毒を飲んで死んでしまう.その後仮死状態から覚めたジュリエットがロミオの死を知り,ロミオの短剣で自害する.
 ここでジュリエットが死ぬかどうかで,ストーリーの印象はだいぶ変わるだろう.ストーリー的には死なないといけないけれど,しかし短剣で自害するって,結構大変だと思いますよ.普通の人だと未遂で終わるだろう.また,自害の仕方を事前に理解していないと正しく死ねない.そんな覚悟がジュリエットにあったのは意外な気がする.
 ストーリー設定として,ロミオが短剣で死に,ジュリエットが毒で死ぬ方が,ありそうな気がする.毒で死ぬのは外見が見苦しい,という理由があったのだろうか.

 ともかく,こんな事情で話がトントンと進んでしまう.そのスピード感が人気の要因のように思えた.

by larghetto7 | 2018-07-22 17:06 | 日記風 | Comments(0)
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