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2018/06/17 日曜 シェイクスピア『間違いの喜劇』
例によって県立図書館でBBCのシェイクスピアのシリーズを借りてきた.返却期限が近づいたので急いで観た.『間違いの喜劇』という作品である. 『間違いの喜劇』は題として変だな,という気もした.が,原題が The Comedy of Errors なので,他の訳はないだろう.例によって私はこのような題の劇があることを認識していなかった.しかし我が国でも小栗旬主演で芝居になっているようで,ちょっと詳しい人なら知っているのだろう. 時間にすると1時間50分ほどで,BBCのシリーズの中でも短い部類である. 舞台は,現在はトルコに属するエフェサスという地中海の港町である.もともとギリシャの都市という位置づけだったらしい.話は,そのエフェサスにアンティフォラスとその従者のドローミオがやって来るけれど,その2人とそれぞれ双子である,名前も同じアンティフォラスとドローミオという生き別れの兄弟がエフェサスにいて,人違いからドタバタ劇が起きる,という喜劇である.人情喜劇というべきだろう.誰が死ぬ訳でもなく,最後は予想通りのハッピィエンドで終わる.悪代官が出てこない水戸黄門のような話である. 舞台を地中海に設定しているためか,舞台は色彩的に華やかで美しく,明るい異国趣味を楽しめる舞台だったのだろう.マイム(軽業)の集団が随所で見せ場を作る.その衣装はルネサンスの頃のイタリアのものに似ている気がする. 同じ喜劇でも『恋の骨折り損』ではおかしさの源泉がセリフにあった.この『間違いの喜劇』はどつき漫才というか,主人と従者のやり取りがたぶん一番おかしなところだろう.身分社会であることを隠さず,アンティフォラスはドローミオをどつくは,どつくは.まあなんというか,昔の関西喜劇の丁稚もの(「番頭はんと丁稚どん」とか,古いけど)のような趣向かなぁ,と思う. とりたてて言うべきことはない.あえて気づいた点を書くと: 繰返しになるが,身分社会であることが,今の視点からは妙に不思議に見える.主人と従者でははっきり境遇が異なる.他のシェイクスピア劇でもそこは同じであり,昔の関西喜劇の丁稚ものでも同じようなものだった.丁稚は丹波の田舎から出てきた貧乏人の子であり,だんさんやとうはんとは身分が違う.関西に限らず,私が子供の頃は世間はそういうものだった.平等になるのは高度経済成長があってからのことである. エフェサスの権力者は公爵(Duke)であり,シェイクスピア劇に出て来る権力者の地位の定番である.『夏の夜の夢』でも権力者は公爵様であり,テンペストではプロスペローはミラノ大公だった.当時のエフェサスの君主が公爵という地位だったということはないように思うが(といっても時代が何時かは分からない),公爵というのは,エリザベス期のイングランドでは分かりやすい,親しみやすい君主様だったんだろう. イングランド(やスコットランド,アイルランド)を洒落で茶化すセリフが出て来るが,外国を舞台にしたシェイクスピアではよくあることであり,観客を笑わせる趣向だったのだろう.『ハムレット』では,ハムレットが気が狂ってイングランドに行くそうだ,という話になり,ハムレットがなぜイングランドなんだと聞くと,墓堀人夫は「あそこはみんな狂っているから」という.『テンペスト』では,化け物のキャリバンを船乗りだったか道化がイングランドで見世物にしよう,「あそこはそういうのに金を出す」と言う.ちょっとイングランドをからかってみて観客の笑いをとるという自虐ギャグ,ないし観客サーヴィスのひとつなんだろう,という気がする. 数えてみると,BBCのシリーズ37作のうち,この作品で16作品を観たことになる.まだ半分にも満たないが,ここまで来ると全37作品を観ようという気になって来る.
by larghetto7
| 2018-06-17 15:47
| 日記風
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