2018/04/22 日曜 シェイクスピア『ヘンリー六世 第一部~第三部』
 BBC制作のDVDでシェイクスピア史劇のヘンリアド4部作を観た後,県立図書館でヘンリアドの前に書いたという4部作のDVDを借りてきた.4部作とは,『ヘンリー六世 第一部』,『ヘンリー六世 第二部』,『ヘンリー六世 第三部』と『リチャード三世』である.この4部作を観たので,ワタシ的には,シェイクスピアの史劇10編のすべてをBBCのシリーズで観たことになる(やったぜ).

 この4部作はシェイクスピアのデビュー作らしい.まだエリザベス一世が在世の時の作である.4部作で扱っているのは,ヘンリー五世の死去の後にヘンリー六世が即位する1422年から,リチャード三世が殺されてヘンリー七世が即位する1485年の間の63年間の物語である.そのうち,ヘンリー六世の在位期間が40年ほどである.ヘンリー六世とリチャード三世の間にエドワード四世の在位期間が,中断を隔てて計22年ほどある.
 この4部作対象期間の直前を扱うヘンリアド四部作は,リチャード二世の終わりの1398年頃から,ヘンリー五世が結婚する1420年頃まで,つまり22年間ほどの話である.ヘンリアド4部作に比べて今回の4部作は対象期間が長く,必然的により多くの事柄が入っているから,劇にするのは都合が良いのだろう.
 2つの4部作を合わせて考えなら,これらの物語の期間は,プランタジネット朝がリチャード二世で滅んでからヘンリー四世以降のランカスター朝になり,ランカスター朝がヘンリー六世で終わってエドワード四世のヨーク朝になるものの,そのヨーク朝もリチャード三世で終わってヘンリー七世からのチューダー朝が始まるところまでである.シェイクスピアがこれらの作品を書いたのはエリザベスのチューダー朝であるから,最後はチューダー朝になってめでたし,とヨイショしているのである.
 DVDの長さは,『ヘンリー六世 第一部』が3時間ちょい,『ヘンリー六世 第二部』と『ヘンリー六世 第三部』がそれぞれ3時間半ちょい,『リチャード三世』になると4時間ちょいである.本で読むより芝居をDVDで観る方がはるかに楽とはいえ,一作品を観るにもかなり疲れてしまった.

 中身は,大変面白い.デビュー作であるから,観客が喜ぶことを狙って作っているのだろう.基本的に戦争活劇プラス宮廷陰謀劇である.話そのものの展開が興味を引く.それだけではなく,セリフの練り方が尋常ではない.
 最も印象に残る登場人物の一人はヘンリー六世の妃のマーガレットだろう.ヘンリー六世が厭世的な性格なので,政治的陰謀や戦で中心になるのがこのマーガレットである.このマーガレットは夫のヘンリー六世や政敵のヨーク公を,罵るわ,罵り倒すわ,いたぶるわ.その激しい言葉の長セリフに圧倒されてしまう.このマーガレットは,ヘンリー六世の死後も,フランスから舞い戻ってイングランドに現れ(そこは史実と異なるが),ヨーク朝に対する呪いの魔女のような役割を続けるのである.

 『ヘンリー六世』三部作の話を大まかにいえば,軸となるのはまず英仏百年戦争だろう.第一部は英仏の戦いの場面が主になる.
 ヘンリアドの期間の話になるが,百年戦争は14世紀の半ばからあったものの,リチャード二世はフランスとの戦争に消極的だった.リチャード二世の後のヘンリー四世は,反乱に悩まされていたので,フランスとの戦争は棚に上げている.その後のヘンリー五世になると,内乱も収まったので,再びフランスへの出兵を計画する.アジンコートの戦いでは寡兵で大軍を破り,パリまで占領する.そしてフランス国内の分裂に助けられてフランス王の継承権を認めさせる.大成功するのである.
 そのヘンリー五世が急死したところから『ヘンリー六世』は始まる.ヘンリー六世の時代になると,ヘンリー五世の成功が仇になって行く.フランスでの戦線を維持するのが負担になり,戦局は悪くなる.
 それでも当初は,グロスター公やヨーク公など,フランス戦線に注力する勢力がイングランドにいたのであるが,マーガレットをヘンリー六世の妻としてフランスから迎えるに当たって,フランスの領土の一部を割譲してしまう.その後,グロスター公は失脚し,フランス戦線からヨーク公も外され,フランス戦線をランカスター派(ヘンリー六世系統)が担うに従い,フランス戦線はますます不利になり,ついにはフランスでの領土のほとんどを失う.この時点でランカスター家側への国内の人気は落ち,ヨーク公の不満も募ることになる.この劇での英仏百年戦争の展開はそんなところである.
 ランカスター派とヨーク派との薔薇戦争は,第一部でも導入されているが,本格的な薔薇戦争は第二部から第三部にかけてである.まず,王位継承の正統性は,王であるヘンリー六世より自分にある,とヨーク公が考えるのである.ややこしい話であるが,この点は一理がある.そこでヨーク公がヘンリー六世に対し,王位を要求するようになる.ここから武力衝突が始まり,本格的に薔薇戦争となる.ランカスター派はいったんは戦闘に勝利し,ヨーク公を殺害するのであるが,ヨーク公の子供のエドワードらが巻き返す.エドワードらは戦闘に勝利し,ヘンリー六世らは逃亡する.ここにエドワードがエドワード四世(ヨーク朝)として即位することになる.
 エドワード四世の治世は20年ちょっとあるのであるが,その間にランカスター派の巻き返しがあり,ヘンリー六世が半年間ほど復位するのである.が,ヨーク派は再び巻き返し,エドワード四世がまた即位する.その直後に,グロスター公となったエドワードの弟のリチャードにヘンリー六世は(シェイクスピア劇では)殺されてしまう.
 『ヘンリー六世第三部』はなかなか印象的な終末を迎える.ヘンリー六世を殺害したリチャードがヘンリー六世の遺体を引きずって運ぶ.その後にエドワード四世らの宮廷の場面になり,一同が喜びながら輪になって踊るのである.その輪の中にリチャードだけが入らない.リチャードは暗い想念を抱いてその場を去って行く.このラストが,続く『リチャード三世』を導入することになる.よくできている.

 『ヘンリー六世』を観ながら,薔薇戦争は応仁の乱と似ているな,という感想を抱いた.時期も似ている.薔薇戦争は,最初の戦闘があった1455年から,リチャード三世が倒される1485年にかけての一連の騒乱である.応仁の乱は1467-1477年である.薔薇戦争では王であるヘンリー六世に存在感がなく,代わりに妃のマーガレットが武闘派だった.ヘンリー六世は薔薇戦争の期間に消えている.応仁の乱では足利義政が政治から興味を失っており,積極的に政治に関与したのは妻の富子だった.義政も応仁の乱の最中に隠居している.
 足利義政は,政治的には功績が少ないが,文化面での功績は大きい.ヘンリー六世も,イートン校やキングスカレッジを創設したことが功績といわれている.妃のマーガレットもケンブリッジ大学クイーンズ・カレッジを創設したそうである.

by larghetto7 | 2018-04-22 19:28 | 日記風 | Comments(0)
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