2018/04/13 金曜 シェイクスピア『ヘンリー五世』
 BBC制作のDVDで,シェイクスピア史劇『ヘンリー五世』を観た.『ヘンリー五世』はヘンリアド4部作の最後である.
 ヘンリー5世は全2作の『ヘンリー四世』でハル王子として,ほとんど主人公扱いで登場していた.俳優も同じデイヴィット・グウィリム(David Gwillim)である.だから私は3作に続けて観たことになる.
 この俳優さん,全2作のときから,誰かと似ているな,と思っていた.3作目にしてやっと気が付いた.そうだ,こいつ,出合君に似ているよな(笑).そういっても分からないでしょうが,出合君というのは何年か前の,埼玉大学教養学部の卒業生である.日本語と英語の違いはあるけれど,声の高さ,声の出し方が似ている.そのうえ,目を瞬くところが似ているのである.身体つきは全く異なるけれど.
 それはともかく….

 ヘンリー五世の事績は華々しい.ヘンリー四世の後を受け,内乱も収まったところでフランスに行って戦争し,フランス王の継承権まで手に入れるのである.だから英国愛国者にとっては誇らしい王なのだろう.
 このDVDでは,冒頭から登場する王侯貴族の服装の美々しさに目を奪われる.このシリーズを観て時代によって服装の変遷があるのは分かるのであるが,特にこの『ヘンリー五世』が豪華である.最後の方のフランス宮廷での場面は特に華麗であり,役のヘンリー五世も絵として伝わった姿そのままに登場しているように見える.画面そのものが当時の絵画を再現しているようにも見える.
 視覚的には立派である.中身はというと,そこは好き好きだろうが,私は好きにはなれない.フランス王の娘キャサリン(後の王妃でヘンリー六世の母)に求婚するところも,何となく空々しい.会ったばかりで「愛している」もないだろう.
 アジンコートの戦いの前に行う「聖クリスピアン祭日のスピーチ」は,有名ではあるが,私には重みがないと思える.語るべき正義がないからである.諸葛孔明の出師表やリンカーンのゲティスバーグ・アドレスとは訳が違う.
 孔明の出師表は,漢室再興を正義と信じ,その実現のために鞠躬尽瘁し死して後止むという.その悲壮な忠義には涙するしかない.戦いの後ではあるが,ゲティスバーグでリンカーンは,自由と平等の理念に基づき新しく生まれた国が今まさに試練にあるといい,その試練のためにこの地で戦って死んだ兵士を,その栄誉を,敵味方の別なく称える.英語で読んでも日本語で読んでも涙が出て来る.広島でのオバマのスピーチは,これも素晴らしかったが,ゲティスバーグ・アドレスをモデルにしたように私は思う.
 それに対してこのヘンリー五世の戦争はなんであろうか.フランスに渡って「オラオラオラ,ここはワイのシマや」といって領土を分捕るだけのことである.ヤクザと変わりがないではないか.

 見ながら,何点か記憶に残るところがあった.
 まず,全2作に出ていたファルスタッフのグループがほぼ全滅してしまう.芝居の冒頭でファルスタッフが風邪で死んだと告げられる.一緒にいたふざけた男もフランスの戦場で盗みを働き,軍律違反で絞首刑になってしまう.一緒にいた少年も戦場のどさくさで殺される.居酒屋のおかみさんも芝居の終わりの方で死んだと告げられる.何となくわびしい気持ちになってしまう.
 面白いと思ったのは,ヘンリー五世が即位後,退位させられ殺されたリチャード二世の遺体をウェストミンスター寺院に改葬し,冥福を祈るために礼拝堂を2つ建立したと語るところである.リチャード二世は日本なら神社が建つかも,と思ったが,似たようなことをイギリスでもやっていた.それだけ,リチャード二世を退位させた罪悪感が,ヘンリー四世にもヘンリー五世にもあったのだろう.
 そのヘンリー五世も,意外と早く,34歳で病気で死んでしまう.リチャード二世の33歳とほぼ同じである.ヘンリー四世も,死ぬときにリチャード二世の肖像画に見つめられていたという伝説もある.

 ヘンリアド4部作を観た.この次はヘンリアドの前に作られた史劇4部作,治世でいうとヘンリー五世後の物語の芝居を観るべきだろう.が,その前に,少しイギリス史を勉強しておくべきだと思っている.バラ戦争あたりの話がややこしそうで….

by larghetto7 | 2018-04-13 19:24 | 日記風 | Comments(0)
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