2018/04/07 土曜 シェイクスピア『ヘンリー四世 第1部・第2部』
 BBC制作のDVDでシェイクスピア史劇の『ヘンリー四世第1部』と『ヘンリー四世第2部』を観た.ヘンリー四世とはリチャード二世を退位させて王位に就いたボリングブルックのことである.話も『リチャード二世』の後を受けている.シェイクスピアの『リチャード二世』,『ヘンリー四世第1部』,『ヘンリー四世第2部』,『ヘンリー五世』が連続した治世の物語であり,4作をまとめてヘンリアド(Henriad)と呼ぶことがあることは,今回初めて知った.
 ヘンリー四世の2作は,内容的には続いているので,2部に分ける必然性はないような気がする.ただ,DVDでも片方が2時間半を超えるので,長さから分けたのだろう.
 この2作は,リチャード二世の後,リチャード二世のシンパによる反乱が続く期間の物語である.題名はヘンリー四世であるが,私には意外にも,活躍するのはハル王子(後のヘンリー五世)と,ならず者(といっても,騎士でサーの称号がある)のフォールスタッフ(ファルスタッフということが多い気がする)である.

 この作品は,構造的に,3つの人物群の世界から成り立っているように感じる.そのそれぞれを「モジュール」と呼んでみよう.第1は「宮廷モジュール」であり,ヘンリー四世をはじめとする王側の廷臣の世界である.第2は「反乱モジュール」と呼べる.反乱者側の貴族がやりとりする世界である.3番目を「ファルスタッフ・モジュール」としよう.主に居酒屋で,ファルスタッフを中心に庶民が織りなす人情喜劇のような世界である.そして放蕩を続けるハル王子は,基本的にはファルスタッフ・モジュールの住人なのである.
 この作品は,この3つのモジュールの舞台が切り替わりながら進行する,という構造を持っている.時間的にいえばファルスタッフ・モジュールが一番長いのではなかろうか? 私には,このファルスタッフが出てきて何が面白いのか分からない.が,このファルスタッフが人気のキャラのようである.また,ファルスタッフ・モジュールが入らないと,話が単純になり,進み具合が早くなり過ぎるという問題もあるのだろう.
 3つのモジュールが切り替わることにより,しかるべき時間が経過して物語が進行している実感を持つことができる.王侯貴族だけでなく,庶民の生活も歴史の中に刻まれている感覚を持つこともできる.3モジュールにする構造は熟慮の末のことなのかも知れない.
 モジュールが交わるときに,物語が先へと進む.宮廷モジュールと反乱モジュールは,戦いの駆け引きや交渉のときに生じて,戦いの結果へと導く.宮廷モジュールとファルスタッフ・モジュールは,ハル王子の身の振り方がかかわるときに交わる.反乱モジュールとファルスタッフ・モジュールは交わらないが,あえていえばファルスタッフが王側で従軍したときに生じたといえるかも知れない.
 反乱が終息するときにヘンリー四世も重体になる.いまわの際でヘンリー四世とハル王子が激しいやり取りをする場面が,この物語の一番の山場だろう.ハル王子は改心することを誓う.自分は王位を簒奪したので反乱にあったが,お前は王位を継承する者であり,平和を実現するとハル王子に告げてヘンリー四世は息を引き取る.そのとき,ハル王子はファルスタッフ・モジュールから宮廷モジュールに移動するのである.
 
 この物語は,反乱貴族の側に興味深いキャラを配している.まず第1部に出て来る,パーシーの息子の方,ホットスパーと呼ばれる貴族である.ホットスパーはトロイの勇者ヘクト―を連想させる.
 もう一人,ウェールズのオワイン・グリンドゥール(英語読みでオウェイン・グレンダワー)がちょっと登場する.グリンドゥールはウェールズの伝説的,神話的な人物らしく,ウェールズ独立の政権構想を持ち,イングランドに反乱を続け,死ぬまで講和しなかった.ウェールズのナショナリズムが高まると呼び起こされる人物らしい.反乱者の会合をそのグリンドゥールの館(ないし城)で行う幕がある.マーチ伯モーティマーがグリンドゥールの娘を妻としているが,妻は英語を話せず,モーティマーはウェールズ語を話せない.そのグリンドゥールの娘がおそらくウェールズ語で歌う.この劇はイギリスが多文化の世界であることを見せる.
 「反乱」はイングランド側の世界観である.ウェールズ側にはまた別の世界観があるのだろう.

by larghetto7 | 2018-04-07 20:16 | 日記風 | Comments(0)
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